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8. 眼の加齢とラクトフェリン  前章目次次章
8-1 糖尿病網膜症と加齢黄斑変性症 8-2 加齢と眼疾患 8-3 三価鉄イオンは酸化ストレスの元凶か?
8-4 ラクトフェリンは老齢ラットの涙腺を若返らせる(1)
8-5 ラクトフェリンは老齢ラットの涙腺を若返らせる(2)
日本では中途失明の原因として最も多いのが糖尿病性網膜症です。
 動物のセンサーである"視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚"を五感と呼んでいます。どのセンサーも正常な生活を営むうえで必須ですが、視覚の喪失は日常生活にもっとも大きな被害を与えることは確かです。聴覚を喪失した場合を考えてみましょう。ベートーベンとスメタナが、不朽の名作「第九交響曲」と交響詩「我が祖国」を作曲したのは、聴覚を喪失してからでした。加えて、聴覚を失ったスメタナは、弦楽四重奏の傑作「我が生涯より」と同第二番を残しました。これらの曲に表現された"聴覚を失った悲しみ"は聴くものの魂を揺さぶります。音が聞こえなくても、大作曲家は心に刻んだ音のイメージだけで作曲することができたのでしょう。ところが盲目の画家が傑作を残したと云う話しは聴いたことがありません。それどころか、中年期以降に視覚を失うと、他人の援助なしには生活もままならなくなります。一挙に身体障害者に転落するのですから、中年期以降に盲目になった人々の悲痛は察するにあまりあります。

糖尿病網膜症と加齢黄斑変性症
 ところで、わが国でも年間に数千人が視覚を喪失していることをご存知でしょうか。しかも、医学の進歩が寿命の延長に追いつけないため、中途失明率は日米などの先進国で増大しています。わが国では中途失明の原因として最も多いのが糖尿病性網膜症(DME)、厚生労働省の統計によると年間2500〜3000人が失明しています。米国に目を転ずると、DMEにも増して猛威を振るっている眼病があります。加齢黄斑変性症(AMD)、特に滲出型AMD(wet AMD)です。AMD治療薬を開発している米国Eye Tech社のホームページによると、全米のAMD患者は1500万人、診断確定の数ヶ月〜2年以内に深刻な視力損失ないし全盲に見舞われる滲出型は160万人です。50才以降に発症するので、ベビーブーマー世代がAMDを好発する年齢に達したため、毎年20万人の新しいwet AMD患者が加わります。
図1. 正常者の像(左)とAMD患者の像(右) 糖尿病が多発する欧米ではDMEも深刻な失明原因です。全米の患者数は50万人、毎年新に7万5千人が網膜症を発症します。ヨーロッパ・ユニオンも米国と同様な状況にあると言われているので、wet AMDとDMEは社会的に大問題なのです。さらに悪いことに、wet AMDとDMEに対しては有効な治療手段がありません。
 wet AMDとDMEは、ガン、アテローマ性動脈硬化、関節炎等とならんで血管新生病に分類されています。つまり、網膜の炎症に栄養と酸素を供給するため、炎症巣に向かって血管が新生します。この新生血管は出来損ないで、血管壁からの血漿成分の漏出、さらに、容易に破綻して出血が起こります。その結果、周囲の細胞が壊死して深刻な視力障害が起こり、最悪のケースでは失明します。前記、Eye Tech社は、血管内皮細胞の選択的な増殖因子であるVEGFを捕捉して受容体との結合を阻止する低分子量のRNAをwet AMDとDMEの治療薬として研究開発しているベンチャー企業です。
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