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5. ラクトフェリンの鎮痛・抗不安作用  前章目次次章
5-1 21世紀最大のフロンティア「脳科学」 5-2 ラクトフェリンの鎮痛効果とオピオイド
5-3 µオピオイドは母仔の絆 5-4 オピオイドは容易に枯渇する
痛みを和らげる鎮痛作用や、母乳をのんで満腹した赤ちゃんの満ち足りた表情は何に由来するのでしょうか。
21世紀最大のフロンティア「脳科学」
 現在、脳はもっとも活気に満ちた研究分野、脳科学はライフサイエンスに残された最大のフロンティアと呼ばれています。ラクトフェリンは大きな糖蛋白質ですから、脳研究に一役買うことになるとは正直なところ考えてもみませんでした。15年前のことです。口内炎に悩まされて食事がとれない末期ガン患者にラクトフェリンの顆粒を差し上げたことがありました。その後「痛みが緩和され食事がとれるようになった」と泣いて感謝されたのです。予想すらしていなかった結果に驚くばかりでした。それ以来、我々にとってラクトフェリンの鎮痛作用は、たいへん面白いテーマとなりました。
 1960年代に脳にモルヒネのμ受容体が発見され、オピオイド研究は大きな変貌を遂げました。モルヒネが神経節のμ受容体に結合すると、疼痛シグナルの伝達が遮断されて痛みが緩和されるのです。
図1 シナプスの模式図 末梢で生じた痛みのシグナルは神経細胞を脳へ伝わるのですが、電線と違って神経細胞のあいだには隙間(シナプス、図1)があります。シナプスはラクトフェリンの脳・神経作用に重要な役割を果たしていることがわかってきました。
 一方、この研究には大きな副産物がありました。我々の脳もモルヒネ受容体と結合する鎮痛ペプタイドを合成していたのです。それらはエンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン等と呼ばれています。ここではモルヒネ、コデインのように植物性麻薬を外因性オピオイド、脳内で合成される鎮痛物質を内因性オピオイドとそれぞれ呼ぶことにします。麻薬は多幸感・恍惚感を生み出すので、耽溺して依存性に陥る悲惨な中毒患者が後を絶ちません。「生体内でつくられる内因性オピオイドなら中毒と関係がないだろう」と考える方もおられるでしょう。ところが皮肉なことに、内因性オピオイドにも耽溺性があるのです。
 母乳を飲んでいる赤ちゃんは、満腹になると満ち足りた表情ですぐに寝入ります。この現象は乳中に内因性オピオイドの存在を暗示します。事実、カゼインの酵素分解物にはオピオイド受容体に結合するペプタイド(カゼモルフィン)が含まれていました。しかし、カゼモルフィンが母乳の快楽物質ではありません。"血液・脳関門"を越え脳脊髄液に取り込まれないからです。ラクトフェリンこそが乳の快楽物質だったのです。
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